顎が痛いときに考えられること
日本歯科医師会の「お口の119」は、口が開きにくい、あごを動かすと音がするときに考えられる場合として、次の2つを挙げています。
- あごの関節などに原因がある(顎関節症)
- あごの周辺に炎症や腫瘍がある(親知らずのまわりの炎症など)
炎症や腫瘍の場合は、できるだけ早い診断と治療が必要です。がまんせず、すぐに歯科医院を受診しましょう。
顎関節症の主な症状

顎関節症では、次のような症状が出ます。
- 口を開こうとすると、あごの関節(耳の穴の前)や、あごを動かす筋肉が痛む
- 口を十分に大きく開けられない
- 口を開け閉めすると、あごの関節で音がする
日本歯科医師会によると、顎関節症は、一生の間に2人に1人は経験すると言われているほど多くの人が経験します。医療機関に来院する患者さんは女性が多く、年齢は10代後半から増え、20〜30代で最も多くなります。
日本口腔外科学会は、症状は悪くなったり良くなったりをくりかえし、再発もしますが、あまり心配しなくてよいケースが多いとしています。顎関節症の多くは、適切な対処で、日常生活に支障がない状態にできます。
音だけなら、治療はいらないことも
日本歯科医師会によると、痛みや口の開けにくさが一時的だった場合や、音だけでほかの症状がない場合は、治療の必要はないかもしれません。音だけであれば、少なくとも人口の20%近くの人が、あごの関節の音を持つとされています。
顎関節症の原因

顎関節症の原因は、一つに絞ることができません。日本歯科医師会は、世界的に認められている考え方として「多因子病因説」を紹介しています。あごの関節や筋肉に負担をかける要因がいくつも重なり、その人の耐えられる範囲を超えると症状が出る、という考え方です。
負担をかける要因(寄与因子)には、次のようなものがあります。
- あごの関節や筋肉の、もともとの弱さ
- かみ合わせ
- 緊張や不安が続くこと
- 転倒や打撲などのけが
- 日常の癖(ほおづえ、スマートフォンの長時間の操作、うつぶせでの読書など)
- 食事(硬い物をかむ、ガムをかむ、片側でばかりかむ)
- 睡眠(歯ぎしり、睡眠不足、うつぶせ寝など)
- 緊張が続く仕事や、コンピューター作業
かみ合わせの悪さも要因の一つですが、それだけで症状が起こるケースはごくまれとされています。
上下の歯を接触させる癖(TCH)
ふつうは、口を閉じていても、上下の歯はかみ合っていません。日本歯科医師会によると、来院する顎関節症の患者さんの8割近くが、口を閉じているときに上下の歯もかんでいる癖を持っていました。この癖(歯列接触癖、TCH)は、あごの関節や筋肉に負担をかけ続けるため、顎関節症を起こしやすくします。この癖を直すと、大部分の患者さんの症状が改善したとされています。
受診の目安
日本歯科医師会は、口を大きく開け閉めしたときに痛みがあり、その痛みが1週間以上続いているなら、歯科医院を受診するよう勧めています。
日本口腔外科学会も、痛みがあり、口がスムーズに開けにくくなった場合は、口腔外科の受診を勧めています。
歯科医院での治療

日本歯科医師会は、治療を選ぶときの原則として、効果がなかったときに元に戻せる治療(可逆的な治療)を選ぶべきだとしています。かみ合わせを良くするためとして、歯を削る、かぶせ物をする、歯列矯正をするといった、元に戻せない治療は避けるべきとされています。
歯科医院では、一般的にマウスピース(スプリント)を使った治療を行います。上か下の歯にかぶせるプラスチックの装置で、夜寝ている間に使い、無意識にかみしめることによる、あごの関節や筋肉への負担を減らします。痛みが強い時期には、痛み止めも使われます。
多くの場合は、これらの治療で症状が消えます。治療を始めて2週間たっても良くなる傾向がない場合は、担当の歯科医師に相談して、専門医を紹介してもらうとよいとされています。
自分でできる対処

日本歯科医師会は、顎関節症の改善には、家庭でのセルフケアが重要だとしています。
痛みが強いとき
口を動かさなくても痛むようなときは、次のことを心がけます。多くの場合、数日で痛みがやわらいできます。
- 氷水を入れたビニール袋を、痛む関節の外側や筋肉の上に当てて冷やす(10分間を限度に)
- 食べ物は小さく切り分け、大きく口を開けないようにする
- かみしめが必要な硬い食べ物(ビーフジャーキー、するめ、フランスパンなど)を避ける
- 急に口を開け閉めしない
- あくびをするときは、下あごの下に握りこぶしを当てて、口が開きすぎないようにする
少し落ち着いてから
口を開けたり物をかんだりしなければ痛まなくなったら、次のことを取り入れます。
- 蒸しタオルを5分ほど当てて温める
- 指先で、ゆっくり押し回すようにマッサージする(強くもむのは逆効果)
日本歯科医師会の「お口の119」は、筋肉がリラックスした入浴時などに、軽く指などを使って口を開ける練習を行うと効果があるとしています。ただし、本格的な訓練は、自己判断で行わず、歯科医師の指示に従うよう勧められています。
日常の癖を見直す
日本口腔外科学会は、自分でできる管理として、次のことを挙げています。
- 顔の筋肉をゆるめ、上下の唇を軽く触れさせ、歯は接触させない
- 大きなあくびや、長時間の歯科治療を避ける
- あおむけで、低い枕で寝る(うつぶせ寝はしない)
- 同じ姿勢を長く続けず、ときどきストレッチをする
- 猫背や、あごを突き出す姿勢をとらない
- ほおづえをしない
歯科医師からの臨床ポイント
顎の痛みで来院した患者さんに、診療ではまずどのような点を確認していますか?
まず、痛む場所、発症時期、食事や開閉口との関係、引っ掛かりや開口制限、生活への影響を確認します。頬やこめかみの筋肉、耳の前の関節を診察し、開口量や顎の動きを調べます。その際、診察で誘発される痛みが患者さんの「いつもの痛み」かを確かめ、筋肉の痛みと関節の痛みを区別します。
関節については、円板の位置異常、滑膜・関節包・円板後部組織の炎症、骨の変化をそれぞれ評価します。円板がずれていても痛みの少ない方がおり、逆に円板転位が目立たなくても関節痛が生じる場合があります。必要に応じて、MRIで円板の位置・開口時の復位や関節液を、CT・CBCTで骨変化を確認し、診察所見と合わせて判断します。
Piper分類は、円板転位が主に外側極に限局するⅢ群か、内側極にも及ぶⅣ群か、開口時に復位するかなど、関節内の構造を整理する際の補助になります。日本顎関節学会の病態分類とは別の分類であり、分類番号だけで痛みの強さや治療の必要性を決めるものではありません。
また、歯や親知らずの炎症、神経痛などを鑑別します。発熱や腫れ、急な噛み合わせの変化、しびれ、他の関節の症状がある場合には、感染性関節炎やリウマチ性疾患なども検討します。
顎関節症の患者さんに、自宅でのセルフケアとして特に勧めていることは何ですか?
まず、顎に負担をかける習慣を減らします。食事や会話をしていないときは上下の歯を離し、食いしばり、ガムや硬い食品の長時間の咀嚼、大きすぎるあくびを控えます。痛みが強い時期には一時的に食べやすい食品を選び、睡眠や休息も整えてもらいます。
運動療法や筋肉のマッサージは、痛みの原因に合った方法を診察で指導します。強い関節炎では炎症の軽減を待って訓練を始めますが、長期間まったく動かさない方針にもせず、適切な可動域訓練につなげます。訓練時の軽い伸張痛と、日常の痛みが増すことは区別して評価します。急に口が開かなくなった場合は、自己流で強くこじ開けず、早めに受診してもらいます。
マウスピース(スプリント)を使う治療について、患者さんにどのように説明していますか?
スプリントは、痛みや機能障害の改善を目的とした保存的治療の選択肢です。セルフケアなどと組み合わせて用い、効果には個人差があることを説明します。一般的なスタビリゼーション型では歯列全体を覆い、歯の接触を調整し、原則として就寝中に使用します。
開始後2〜3週間程度で、痛み、開口量、食事のしやすさ、適合、噛み合わせを確認し、その後も効果と副作用を見ながら使用期間を決めます。使用後に痛みが増す、噛み合わせが変わる場合には、装着を続けて様子を見るのではなく、早めに相談してもらいます。
前方整位型は、間欠的なロックなど特定の病態で専門的に検討します。円板が必ず元に戻る、戻った状態を必ず維持できると説明せず、咬合変化にも注意して調整します。治療の目標は、痛みを軽減し、無理なく食事や開閉口ができる状態を得ることです。
よくある質問
あごを動かすと音がします。治療が必要ですか?
痛みがなく、音だけであれば、治療の必要はないかもしれません。日本歯科医師会は、世界的には「音だけであるなら治療する必要はない」とされているとしています。口を開けると痛む、口が開けにくいといった症状があるときは、歯科医院で診てもらいましょう。
顎関節症は、かみ合わせを直せば良くなりますか?
かみ合わせを直せば顎関節症が治る、と一概に言うことはできません。顎関節症の原因は一つではなく、かみ合わせの悪さだけで症状が起こるケースはごくまれとされています。日本歯科医師会は、かみ合わせを良くするために歯を削るなどの、元に戻せない治療は避けるべきとしています。日本顎関節学会の診療ガイドライン(2012年)も、「咬合調整は行うべきではない」と提言しています。かみ合わせを削って整える処置(咬合調整)は元に戻せないため、関節円板の状態などを踏まえた、専門的で慎重な判断が欠かせません。
顎が痛いときは、何科を受診すればいいですか?
歯科医院、または口腔外科を受診しましょう。治療を始めて2週間たっても良くならない場合は、担当の歯科医師に相談して、専門医を紹介してもらうとよいとされています。
関連する記事
参考文献
- 公益社団法人 日本歯科医師会 口が開きにくい あごを動かすと音がする(テーマパーク8020 お口の119)
- 公益社団法人 日本歯科医師会 顎関節症<1>これって顎関節症?(テーマパーク8020)
- 公益社団法人 日本歯科医師会 顎関節症<2>治療と対策(テーマパーク8020)
- 公益社団法人 日本口腔外科学会 あごの関節の音がする/口が開かなくなった/あごが痛い(口腔外科相談室)
監修日:2026年10月15日
