親知らずがトラブルの原因になりやすい理由

親知らずは、いちばん奥に生える歯です。正式には第三大臼歯といい、智歯(ちし)とも呼ばれます。生える時期は、おおむね10代後半から20代前半です。

イギリスの NHS(国民保健サービス)は、親知らずが生える場所が足りないと、痛みや腫れ、歯ぐきの感染(智歯周囲炎)、食べ物が詰まる、むし歯、歯周病などの原因になることがあると説明しています。

抜いたほうがよい場合

一部だけが生えた親知らず。基本的に抜歯が勧められます

日本歯科医師会は、抜いたほうがよい場合の目安として、次の4つを挙げています。

  • 親知らず自体、あるいは手前の歯がむし歯になった
  • 横向きに埋まっていて、前方の歯に障害を及ぼしている
  • いつも食べ物がつまる、歯肉の腫れや痛みを繰り返している
  • 骨の中に完全に埋まっているが、エックス線写真で袋のような影(嚢胞)がみられる

親知らずが中途半端に生えて、歯肉が部分的にかぶったままになると、不潔になりやすく、歯肉の炎症を起こしやすくなります。これを智歯周囲炎(ちししゅういえん)と呼び、20歳前後の人に多い病気です。炎症が周囲に広がると、顔が腫れたり、口が開きにくくなったりすることがあります。

智歯周囲炎になった場合は、抗菌薬や痛み止め、うがい薬などで炎症を鎮めます。生える方向が悪い場合や、炎症をくり返している場合は、抜歯することが適当と考えられています。

このように一部だけが生えて、残りが埋まったままの親知らずは、基本的に抜歯が勧められます。

抜かなくてもよい場合

抜かなくてもよい場合。上下できちんと生え、かみ合っている

日本歯科医師会は、親知らずだからすべて抜くというのではなく、次のような場合は抜かなくてもよいとしています。

  • 親知らずが上下できちんと生え、かみ合っている
  • あごの骨の中に完全に埋まっていて、問題がない
  • 入れ歯やブリッジの土台として必要
  • 手前の歯を失ったときに、移植に使える
  • 矯正治療で正しい位置に動かすことができる

骨の中に完全に埋まっている親知らずは、痛みや腫れなどの症状がなければ、直ちに抜く必要はないとされています。歯を抜くと元には戻せないため、抜くメリットとデメリットについて歯科医師と十分に相談してから決めることが勧められています。

埋まったまま残す場合の注意

症状がなく病気もない、埋まった親知らずを抜くべきか残すべきかについては、2020年のコクランレビュー(複数の研究をまとめて評価した報告)でも、対象となった研究が2件と少なく、判断するための十分なエビデンスはないとされています。

ただし、残した場合には、長期的に隣の歯(第二大臼歯)の歯周炎のリスクが高まる可能性が示されています。残すと決めた場合は、定期的に診てもらうことが望ましいとされています。

抜歯の流れと、痛み・腫れの目安

やわらかい物や液状の物を食べる

正常に生えている親知らずは、普通の歯と同じように、比較的簡単に抜くことができます。大部分が骨の中に埋まっている場合や、根の形が複雑な場合は、歯肉を切開したり、骨や歯を削ったりします。

NHS によると、抜歯は通常、局所麻酔で行います。抜歯のあと最長2週間ほどは、次のようなことが起こることがあります。

  • 痛みと腫れ(1〜2日で良くなり始める)
  • ほおのあざ
  • あごの痛みやこわばり
  • かみにくさ、飲み込みにくさ

回復のために、NHS は次のことを勧めています。

  • 楽にかめるようになるまでは、やわらかい物や液状の物を食べる
  • 傷口をおおう血のかたまりを傷つけないよう、傷の部分を避けて、ほかの歯をていねいにみがく
  • 硬い物や、傷口に詰まりやすい物(ナッツや種など)を食べない
  • たばこを吸わない(感染のリスクが高まる)
  • お酒や非常に熱い飲み物を避ける

抜歯のあと、受診を急ぐ症状

抜歯のあと、受診を急ぐ症状

親知らずの抜歯は、多くの場合は簡単な処置ですが、合併症が起こることがあります。NHS は次のものを挙げています。

  • ドライソケット(傷口をおおう血のかたまりがうまくできない、または治る前に取れてしまい、痛みが出る状態)
  • 感染
  • 歯の近くの神経の損傷(舌・くちびる・あごのしびれや、ぴりぴりした感じ。通常は良くなるが、数週間から数か月続くことがある)

次の場合は、急いで歯科を受診するよう勧められています。

  • 出血が止まらない
  • 痛みや腫れがひどい、または悪化していて、痛み止めが効かない
  • 痛みに加えて、口の中の嫌な味、高い熱、体調の悪さがある

歯科医師からの臨床ポイント

親知らずを抜くかどうか、診療ではどのような点を見て判断していますか?

最も重視するのは、残すことによる不利益と、抜歯による利益・リスクの比較です。炎症を繰り返していないか、むし歯や歯周病がないか、清掃できる生え方か、噛み合わせに役立っているかを確認します。特に、手前の第二大臼歯にむし歯、骨の減少、歯根の吸収などが生じていないかは重要です。痛みがなくても、診察や画像で病変が見つかることがあります。一方、病変がなく、機能して清掃できる親知らずでは、定期的に経過を確認する選択肢があります。

抜歯を検討するときは、埋まっている深さや歯根の形、下顎では神経との位置関係、上顎では上顎洞との関係、持病・服薬なども評価します。CTは、通常の画像で神経への近接などが疑われ、追加情報が術式や治療方針に影響する場合に検討します。難しい症例では、口腔外科での評価を勧めます。

抜歯のあとの痛みや腫れについて、患者さんにはどのように説明していますか?

歯ぐきの切開や骨を削る操作が必要な抜歯では、痛み、腫れ、口の開けにくさが生じることを、処置前に説明します。一般に最初の2〜3日は症状が強く、その後は徐々に改善しますが、違和感や開けにくさが1〜2週間程度残る場合もあります。経過は抜歯の難易度や体の状態によって異なります。

患者さんには、「何日たったかに加えて、改善に向かっているかを見てください」と伝えます。鎮痛薬の使い方、食事や安静の取り方を具体的に説明し、傷を保護する血のかたまりを守るため、抜歯当日の強いうがいや傷口への刺激、喫煙などを避けてもらいます。

抜歯のあと、どのような症状があれば連絡・受診してほしいですか?

次の症状では、抜歯を受けた医院へ早めに連絡してもらいます。

– 指示どおりにガーゼを噛んで圧迫しても出血が続く、口の中に血がたまる。
– 鎮痛薬で抑えられない強い痛み、数日後から強まる痛みがある。
– いったん改善した腫れや痛みが再び増す、発熱や膿が出る。
– 麻酔が切れる時間を過ぎても、唇・顎・舌のしびれや感覚の変化が続く。

術後3〜5日ごろからの強い痛みでは、血のかたまりが失われる「ドライソケット」や感染などを診察で見極めます。息苦しい、唾液も飲み込めない、舌の下や首へ急速に腫れが広がる場合は、予約日を待たず救急受診が必要です。呼吸に支障があれば119です。

よくある質問

親知らずは、必ず抜かなければいけませんか?

すべての親知らずを抜くわけではありません。ただし、一部だけが生えて、残りが埋まったままの親知らずは、基本的に抜歯が勧められます。日本歯科医師会は、上下できちんと生えてかみ合っている場合や、あごの骨の中に完全に埋まっていて問題がない場合は、抜かなくてもよいとしています。抜くかどうかは、メリットとデメリットについて歯科医師と十分に相談してから決めましょう。

抜歯のあとの痛みや腫れは、どのくらい続きますか?

NHS は、抜歯のあと最長2週間ほどは痛みと腫れが起こることがあり、1〜2日で良くなり始めるとしています。痛みや腫れがひどい、または悪化していて痛み止めが効かない場合は、急いで歯科を受診します。

親知らずのまわりが腫れて痛いときは、どうなりますか?

親知らずのまわりの歯肉に炎症が起きている状態を、智歯周囲炎といいます。日本歯科医師会によると、抗菌薬や痛み止め、うがい薬などで炎症を鎮めます。炎症をくり返している場合は、抜歯することが適当と考えられています。

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参考文献

  1. 公益社団法人 日本歯科医師会 親知らず(テーマパーク8020)
  2. NHS(英国 国民保健サービス) Wisdom tooth removal (NHS) (2024)
  3. Cochrane Oral Health Surgical removal versus retention for the management of asymptomatic disease-free impacted wisdom teeth (2020)

監修日:2026年10月14日